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岡山大病院 心臓死肺移植を研究  5年内実施目標 手続き面に課題

国内で例がない心臓死肺移植の実施を目指し、動物実験を続ける岡山大病院呼吸器外科スタッフ=18日、同大鹿田キャンパス

大藤剛宏助教

 脳死肺移植、生体肺移植の数がともに国内トップの岡山大病院(岡山市鹿田町)が、国内で例がない「心臓死肺移植」の実施に向けて研究を進めている。欧米諸国はすでに症例を積み、同病院も5年以内の実施を目標に動物実験を続ける。ドナー(臓器提供者)不足の中、移植機会の増加が期待できるこの肺移植。新手法だけに、患者選定の手順など社会的な体制整備が課題という。現状を探った。

 岡山大病院は一九九八年、国内初の肺移植を生体で実施。心臓死肺移植については、呼吸器外科が二〇〇〇年に研究を始めた。世界的には翌年、スウェーデンでのケースが世界で初めて報告され、その後、スペインや米国などで約四十例が行われたという。

 そんな中、留学先の豪州メルボルン市の病院で、同国初のケースなど心臓死肺移植二例のほか脳死肺移植約二百例を手掛けた岡山大病院呼吸器外科の大藤剛宏助教が今春帰国。研究が本格化した。

「温虚血」

 臓器移植法施行(一九九七年)後、これまでの脳死移植は五十六例止まり。半面、ドナーの健康体を傷付けるということで倫理面に課題を残す生体移植は伸びている。

 「新手法が加わることで肺移植の機会が増える。心停止後の摘出なので生体移植の課題もクリアできる」。大藤助教はそう位置付ける。

 心臓死肺移植を行う上で、“壁”だったのは「温虚血」。心停止によって血液循環や酸素供給が止まった状態を指し、時間の経過に伴い細胞がダメージを受ける。

 すでに心停止後移植が行われている腎臓の場合、温虚血が三十分程度なら移植可能。国内では年間百五十例前後が手掛けられている。

 腎臓に比べて肺の研究は遅れていたが、海外の動物実験などから「肺胞に比較的多くの酸素が蓄えられており、一―二時間であれば移植に耐えられる」(大藤助教)ことが判明した。

技術的に可能

 同外科ではこれまでに、動物実験で心停止後に摘出された肺が移植直後も正常に働くことを確認。脳死十一例を含む計約六十の肺移植の実績もあり、心臓死肺移植は技術的には可能とみる。

 ただ同外科が目指すのは、発展させた上での実施。摘出した肺のうち、細菌感染や水がたまる肺水腫で傷んだものでも、体外で治療した後に移植することだ。

 肺は、気道を通して外気と結ばれ、細菌感染の危険性が高い。肺水腫は、肺炎や外傷などが引き金となった全身の炎症がもとで起きる。

 肺機能が良好な状態での移植を第一とする現状では、こうした肺は利用対象外。だが、提供に至らなかった脳死ドナーの肺には「傷みが比較的軽く、治療すれば移植に耐えられたものもある」(移植関係者)という。

 同外科は今後、機械的に血液を送る人工心肺装置を使い体外で肺機能を保ちながら、治療のための薬品開発や効果的な投与法の確立を図る。すでに動物を使った基礎実験を始めた。

 しかし、実施には技術面以外に手続き面での課題もある。伊達洋至教授が指摘する。

 「どの患者に移植するのかという判断は脳死移植の場合と同じで良いのか。家族が延命治療を望まない場合、人工呼吸器を外した後の提供は認めてよいのかどうか。こうした点を社会的に解決しておくことが不可欠だ」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年07月23日 更新)

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