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第3部 揺らぐとりで (3) 破たん 内科医不在 救急困難に

津山第一病院の救急外来入り口。医師不在のため内科の救急患者の受け入れが困難な状況が続いている

 <ER CENTER>

 津山中央病院(津山市川崎)から西へ6キロ。市街地を挟み反対側の郊外にある津山第一病院(同市中島)の救急入り口。すべての救急患者に対応する「ER」(救急室)の赤い文字盤が夜間、浮かび上がる。

 津山・英田圏域で津山中央病院に次ぐ211の一般病床がある。一時は両病院で救急車の7割近くを受け入れた。

 ところが、今は文字通りの役割を果たせていない。

 昨年3月、常勤の内科医が2人とも退職。救急患者の対応が難しくなり、内科の夜間・休日の救急当番を返上、外科だけになった。

 直後の4月下旬、病院を運営する医療法人が岡山地裁津山支部に民事再生法の適用を申請し経営破たんした。病院の再生事業を手掛ける東京の企業の支援を受け診療を続ける。

 帝国データバンクによると、昨年の医療機関の倒産(法的整理のみ)は全国で過去最多の52件に上った。中でも津山第一病院の負債総額約59億円は最大の規模だった。

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 「医師がここまで確保できないとは。誤算だった」

 今は別のクリニックにいる法人の前理事長(60)が無念さをにじませる。

 津山中央病院の後を追うように2005年、市街地から移転、新築した。「競争がないと進歩はない。地域の医療水準を向上させたかった」。救急抜きに医療は成り立たないという考えでERの看板を上げ、救急医療に力を入れた。

 最新鋭の心臓カテーテル装置やMRI(磁気共鳴画像装置)など設備投資を惜しまなかったのは、若い医師を呼びたかったからだ。

 移転後は常勤医10人でスタート。将来は20人前後への増員を目指していた。

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 だが、その目算は大きく狂った。

 移転の前年。新人医師が研修先を自由に選べる「臨床研修制度」が導入された。都市の大病院に人気が集中することになり、研修医が集まらない地方の大学病院は人手不足に陥ったのだ。

 「申し訳ないが、人を出す余裕はない」。医師派遣の約束を取り付けていた複数の大学から断られた。岡山、鳥取県はもちろん、四国や関西の大学も回ったが、いい返事はもらえなかった。

 医師が増えないと診療収入も伸びない。移転新築の借入金が経営を圧迫する悪循環だった。前理事長は言う。

 「経営責任はある。だが、医療制度が医師を大病院に集中させ、中小病院はやっていけなくなっている」

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 津山第一病院が内科の救急当番から抜けた本年度、圏域の輪番制には新たに4病院が加わった。しかし、いずれも中小病院。 砦 ( とりで ) となる津山中央病院の負担は増すばかりだ。

 津山第一病院の再生には7人まで減った常勤医の確保がやはり課題。内科は依然いないが、4月から外科、泌尿器科の2人が新たに勤務する。

 「立て直しは一病院の問題にとどまらない。地域の救急医療を守ることにつながる」。津山市内の別の病院長は期待する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月21日 更新)

タグ: 医療・話題

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