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第3部 揺らぐとりで (5) 地盤沈下 満床常態化 4%断る

老人保健施設を回診する西下理事長。昨年4月、病院からの転換に踏み切った

 2月上旬の平日午前11時すぎ。津山中央病院(津山市川崎)救急外来の電話が鳴った。

 「60代女性。転倒して腰を強打した」

 救急車からの患者受け入れ要請だ。担当医師はすぐに看護部に連絡、ベッドの空き具合を確認した。

 525の病床のうち、結核、感染症病床を除く487床はほぼ満床。無理をすれば受け入れられるが、完全にベッドが埋まれば重篤な患者が来た際に対応できない。

 「症状から命に別条なさそうだ」。そう判断した医師は申し訳なさそうに回答した。「この時間帯なら他の医療機関が対応できる。当たってみてほしい」。女性は市内の診療所に搬送された。

 「すべての救急患者を断らない」ことを掲げる津山中央病院。しかし昨年は、救急隊や他の医療機関からの要請のうち、4%にあたる197件を断った。

 その理由のトップは「ベッドの空きがない」(81件)。「多数の救急患者に対応中」(26件)、「手術中」(25件)などに比べ圧倒的に多い。

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 「重症患者は必ず受ける。(それ以外を)ベッドの空きがなくて断るのも極力避けたいが、受け皿がない」。藤木茂篤上席副院長(56)は歯がゆそうに話す。昨年の病床利用率は91%。満床が常態化している。

 同病院に限らない。津山・英田医療圏の一般病床と慢性期を診る療養病床の2008年の平均利用率は87%。岡山県平均を9ポイント上回った。県内5ブロックで最も高い。

 急性期の入院患者の病状が安定すれば、慢性期対応の医療機関に転院してもらうことで空きベッドは確保できる。だが、受ける側の環境が整っていない。

 そこから見えるのは、地域医療全体の地盤沈下だ。医師や看護師不足が進み、病床の廃止や、一般病床から医師の配置基準が緩い療養病床、介護施設への転換が相次いでいる。

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 昨年4月、療養病床50床の病院から診療所と老人保健施設、有料老人ホームに転換した医療法人西下病院(津山市田町)。常勤医は西下純治理事長(45)ただ一人だ。

 これまで国は増大する社会保障費抑制のため、療養病床の削減を促してきた。医療の必要性が低い「社会的入院」が問題視された。

 西下理事長は病院存続を模索したが、医師確保のめどが立たず断念。「他の医療機関には迷惑を掛けたが、仕方がなかった」と苦しい胸の内を明かす。

 津山・英田医療圏の病床数は最近5年で13%減り2305床(昨年10月現在)。このうち420床は、実際には使っていないことが多い診療所分だ。数字上は県が定める基準病床の1913床より多いため、新設・増床は認められない。

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 患者の転院受け入れを要請するため、藤木副院長は昨年1、2月、津山、真庭市や兵庫県佐用町など地元23医療機関を回った。

 その結果、「顔の見える関係ができ頼みやすくなった一方で、病床や医師数、設備などを聞き、受け入れ体力がないのをあらためて感じた」と話す藤木副院長は「それにしても…」と首をかしげる。

 「空きベッド確保には地域連携が必要。このままでは県北の医療は大変なことになる。でも、これは医療機関だけで解決する問題だろうか…」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月23日 更新)

タグ: 医療・話題

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