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第3部 揺らぐとりで (6) 芽生え 応援、講座 支える動き

救急外来の診療を終え、当直の梶部長(右)に患者を引き継ぐ田中医師(左)=津山中央病院

 「風邪だと思うけれど、念のために血液検査もしました。後はお願いします」

 津山中央病院(津山市川崎)の救急外来。午後10時を過ぎ、田中久也医師(37)が、発熱で診察した生後1カ月の赤ちゃんの病状を梶俊策小児科部長(44)に伝え、当直を引き継いだ。

 田中医師は同市内の内科、小児科の開業医。月1回、午後7時から3時間、ここで診察する。この夜は7人の患者を診た。

 同病院の救急外来では2006年から、小児科が当直に加わった。患者の4割は子ども。以前は内科の当直医が担当したが、専門医の診察を望む声は多かった。

 ただ、小児科の医師は5人だけ。「手伝ってほしい」。病院の呼び掛けに応えたのが田中医師ら6人の開業医だった。

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 「重症患者の治療をこちらが病院にお願いすることもある。勤務医の負担を少しでも軽くしてあげたかった。自分もいろいろな患者を診て経験を積め、得るものは大きい」と田中医師。

 開業医が診る間、朝から勤務する病院の医師は仮眠したり、病棟を回診して、余裕を持ち当直に入れる。

 応援の輪は年々広がり、今は13人の開業医が参加。カバーできる回数も当初の1カ月に6日から10日前後に増えた。梶部長は「昼間の診療もあり、病院の5人で24時間、365日診るのはしんどい。応援は本当にありがたい」と感謝する。

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 「夜、38度の熱を出しても元気なら家で様子を見て、翌日に受診すれば大丈夫」

 「電池をのみ込んだらすぐに救急へ行ってください」

 2月24日、岡山県勝央町のコミュニティーセンター。梶部長が約40人の母親に、子どもの病気の対処方法を教えた。

 美作保健所管内愛育委員連合会が同保健所と昨年度から開く「子育て支援出前講座」。親の不安を取り除き、どんな場合に救急にかかるか知ることで不要不急の受診を減らす。軽症患者の殺到に悩む医師の負担軽減も狙いにある。

 同病院や地元の開業医を講師に、本年度は津山・英田圏域の15カ所で開催。トータルで前年の3倍以上の約500人が受講した。

 同連合会の藤本貴子会長(66)=津山市院庄=は「参加者の反応は良い。1年、2年ではなく長く続けて浸透させたい」と意欲を見せる。

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 こうした動きを広げるにはどうすればいいのか。

 同病院は2月13日、救急医療をテーマに初の市民公開講座を同市内で開いた。

 会場のホールを約700人の市民が埋めた。急病時の治療などを15人の医師らが講演。総括に立った藤木茂篤上席副院長(56)が訴えた。

 「われわれにはみなさんの命を守る使命がある。(入院が必要な)2次、3次救急の患者を時間に追われず的確に治療したい。じっくり家族にもお話ししたい。ところが、1次救急に追われている。医師や看護師は疲労 困憊 ( こんぱい ) している。まず、この現実を知ってほしい」

 揺らぐ救急医療の処方せんは、医療者と市民が互助の精神でともに一歩踏み出すことから見えてきそうだ。

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 第3部おわり。第4部は慢性的な医師不足に悩む岡山県北のへき地医療の現状を探ります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月24日 更新)

タグ: 医療・話題

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