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第4部 過疎地を守る (2) 救急告示 念願の再認定へ奔走

医師確保のため岡山市内の病院に向かう遠藤院長(右)。救急告示復活に向けて奔走する=JR岡山駅

 渡辺病院(新見市新見)の遠藤彰院長(45)は1月下旬、公表されたばかりの資料を持ち、岡山市へ向かった。

 岡山県がまとめた「地域医療再生計画 高梁・新見 及 ( およ ) び真庭版」。新見の課題である救急医療の強化をうたい、具体策として渡辺病院の建て替えに億単位の補助を盛り込んだ。

 県が補助の前提に求めたのが救急告示病院の“復活”。そのための医師確保に遠藤院長は奔走する。

 この日訪ねたのは、かつて勤務した病院。次期院長になる研修医時代の指導医に、渡辺病院の現状を説明し支援を求めた。

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 常勤医5人、ベッド数98床。渡辺病院は外科を中心に内科、婦人科など8診療科を持つ小規模病院だ。

 新見市内でただ1カ所の救急告示病院だったが、2006年末にやむなく返上した。常勤医が体調を崩したり退職し、夜間を託せる医師が減ったためだ。遠藤院長自身、当直は月10回を数えた。

 「このままだと死んじゃう。本気でそう思った」

 岡山県内15市で唯一、救急告示病院がゼロになった後、市内の4病院はそれぞれ救急に対応。渡辺病院も年間約1400人の患者のうち、約300人を受け入れた。だが「救急告示」の看板が外れたことでピーク時からは3割ほど減少。その分、他の病院の負担増や市外への搬送増加につながった。

 遠藤院長は 忸怩 ( じくじ ) たる思いだった。「新見の病院は何で患者を受けないんだ」「消防さんの頼み方が悪いんじゃないの」。市外へ患者を搬送した救急隊員が現地で皮肉ともとれる言葉を聞いていることも知っていた。何より、地域医療に対する市民の信頼が薄らぐのが心配だった。

 一方で、症例数が少なくスキルアップが望めないなど、新見に医師が来てくれない理由も分かる。だが―。

 「『仕方ない』で済ませたら、やっぱりダメですよ」

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 渡辺病院が救急告示を返上して1年半後の08年6月。新見中央病院(同市新見)が県南の病院から医師1人の派遣を受け、その“条件”として12月、救急告示病院に認定された。手薄な県北部を対象にした県の医師派遣事業。期間は1年間だった。

 その間に同病院は自前で常勤医を探した。しかし、めどが立たないまま派遣期間は終了。市は延長を強く希望したがかなわず、病院には救急告示の重圧だけが残った。

 「常勤医は3人。県南の病院に無理を言って非常勤医に来てもらい、何とかやりくりしている。救急が地域に必要だから頑張っているが、正直しんどい」。病院関係者は漏らす。

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 3月中旬、交通事故で多数のけが人が出たとの想定で、市消防本部が机上訓練を行った。一刻も早く患者搬送しようと真剣な表情の職員を見ながら遠藤院長はつぶやいた。

 「少なくとも心肺停止の患者は(遠い)市外に運ばなくてもいいようにしたい」

 訓練の終わりを待たず岡山大に向かった。夕方から出身医局の関係者と会い、医師の派遣を依頼。3月に入って2度目の訪問だ。

 「早ければ年内にも救急告示を復活させたい。再挑戦への手応え? 感じてます」


ズーム

 救急告示病院 国が3段階に分ける救急医療のうち、入院や手術が必要な重症患者に対応する2次救急を主に担う。救急の知識、経験がある医師が常時診療する▽施設、設備が整う▽救急患者の病床を持つ―などが基準。医療機関の申し出に応じ、都道府県が必要性を認定して告示。診療報酬などの優遇がある。診療所を含め岡山県は90、広島県は148、香川県は67カ所。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年04月05日 更新)

タグ: 医療・話題

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