文字 

第4部 過疎地を守る (7) 遠隔モデル TV電話で助言求める

診察室でテレビ電話を使う山口医師。症例検討や診療に成果を挙げている

 外来診察が一段落した正午前。医療生協阿新診療所(新見市新見)の山口義生医師(54)はテレビ電話に向かった。80代男性の胸のエックス線画像が映し出された。

 「前の検査と比べると、 肋骨 ( ろっこつ ) あたりの影が濃いですが、なぜでしょうか」

 通話相手は、太田病院(同市西方)に週1回、非常勤で診察に来ている画像診断が専門の放射線科医。

 阿新診療所の医師は、内科の山口医師だけ。「診断に迷う症例も他の医師の助言で自信を持てる。岡山県南の病院まで患者に行ってもらわずに済んでいる」という。

 市内の病院の小児科や外科の専門医にもテレビ電話を使ってアドバイスを求める。今や欠かせない医療ツールだ。

  ~

 「遠隔医療」は新見医師会と新見市などが2004年から実証実験に取り組んでいる。

 テレビ電話は市内の4病院すべてと16診療所、14介護施設に設置。同市が市内全戸に張り巡らせた光ファイバー網でつながる。

 医師間だけでなく、訪問看護師が寝たきりの高齢者宅に携帯型テレビ電話を持ち込み、インターネットで接続した画面を通して医師が診察。介護施設では床ずれなどの入所者の健康状態を職員が撮影し、外部の医師に相談している。

 「通信で医療機関がつながり一つの病院のようになれば、1人で診療する不安が減る。若い医師も呼びやすくなる」。遠隔医療の旗振り役の一人、山口医師は期待する。

  ~

 実証実験は08年度、国の「地域ICT(情報通信技術)利活用モデル構築事業」に採択され、ネット接続料などが2年間補助された。本年度は、市と新見医師会が接続料や機器のリース料を負担、事業を継続している。

 医師不足が深刻な過疎地の切り札ともいわれる遠隔医療。新見には県外からの視察が相次ぐ。

 2月上旬、導入を検討中の秋田県から、県職員ら4人がやって来た。市診療所などを案内した医師会会長の太田隆正・太田病院理事長(61)に質問が続いた。

 「テレビ電話での診察の頻度はどれくらい」「外来診察に支障はないのか」

 在宅患者32人を対象に、月2回の定期往診に加えて月1回、訪問看護師と協力してテレビ電話で診察している。その実績を太田理事長は紹介した後、広大な市域や高い高齢化率、乏しい公共交通網など市の現状を挙げ、こう強調した。

 「新見の地域性に根ざした新しい医療のかたち。住民への医療サービスアップに向けこれからも続けたい」

  ~

 課題はある。遠隔診察は診療報酬につながらないため、負担の増す医療機関側に経営的なメリットがない。行政支援についても「契約中の複数年の機器リースが切れた後は未定」(市市民課)としており、先行きは不透明だ。

 「新見の現状は日本の医療が直面する負の縮図だ」。太田理事長は嘆く。一方で、地域の医師に根付く伝統的な「助け合い」意識が、遠隔医療を活用した「地域の患者は地域で診る」ことにつながっていると感じている。

 「ベストではないがベターを目指す」。過疎地の医療を守る関係者共通の思いだ。

     ◇

 第4部おわり。第5部は、運営難にあえぐ岡山県南の公立病院を通し、自治体が医療に果たす役割を探ります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年04月11日 更新)

タグ: 医療・話題

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ