文字 

第5部 公立病院の苦悩 (3)悪循環 医師去り赤字過去最悪

外来で患者を診察する三島院長。医師の減少で診察が増えた=玉野市民病院

 回診や職員朝礼を済ませ、午前8時半に内科診察室に座る。午後3時ごろまで、多い日に診る患者は約80人。遅い昼食後、また病棟へ。その合間に院長としての会議や、学会、講演会の準備…。

 「仕事は年々増えるばかり。旧知の患者さんから『先生、病気にならないでね』と逆に心配される始末でね」

 玉野市立玉野市民病院(同市宇野)の三島康男院長(58)がこぼす。2008年まで週3日だった外来は今は4、5日。7人いた内科医のうち2人が開業や「勤務がきつい」との理由で辞めたためだ。

 内科、外科、小児科、産婦人科など12科、市内で最多の199のベッドがある同病院。常勤医は最近5年で4人減り、13人。「うちの病院機能なら20人は必要なのだが」と三島院長。

 科の実情に応じて診療日や手術を減らしたり、入院を制限して対応している。医師の負担を減らすため月3日ほど、院長自ら夜の当直もこなす。

  ~

 3億4千万円―。同病院は08年度、過去最悪の赤字となった。収益は20億円。前年度より11%も落ち込み、一方の経費は23億4千万円。

 「内科医1人当たり、粗勘定で年1億5千万円の収益がある」(三島院長)。医師が減ると受診する患者が減り、収益がダウンする。その悪循環に、診療報酬の4期連続マイナス改定が加わり、経営の悪化に一層の拍車をかけた。

 公立病院は利益の出にくい救急など不採算部門を担うという宿命がある。このため、市は同病院へ年1億円以上を補助。にもかかわらず、1992年度からは赤字続き。累積赤字は24億円を超えた。

  ~

 総務省の集計では、全国の公立病院のうち、7割に当たる661病院が、08年度に経常損失を出した。岡山県自治体病院協議会まとめによると県内は19病院中、11病院が赤字だ。

 公立病院は“高コスト”という体質も抱える。「民間病院に比べ医師以外の職員給与が高い。しかも、なかなか見直しに踏み込まない」。城西大の伊関友伸准教授(行政学・公共経営論)は指摘する。

 医業収益に占める職員給与の割合は、通常50%台の民間病院に対し、玉野市民病院は76%にもなる。勤続年数が長いことなどが賃金を押し上げている。

 同市は看護師手当の見直しなどを07年度から行い、年8300万円の人件費を節約する計画を立てた。だが、いまだ具体的な交渉に入れずにいる。

  ~

 公立病院の経営悪化を受け、総務省は07年、自治体に改善に向けた具体的数値目標を盛り込んだ改革プラン策定を求めた。

 玉野市は08年度末策定のプランで、09年度に赤字を1600万円まで大幅圧縮する目標を掲げた。内科と外科の常勤医を1人ずつ確保できる見通しがあったからだ。だが、勤務先の慰留などで実現せず、さらに別の科の医師が1人辞めた。

 市は今月、医療関係者や市民代表による「市民病院改革検討委員会」を立ち上げる。経営再建に向けた議論を1年がかりで重ねる。

 「市民の安心を守るため、経営を立て直して生き残りたい。だが…」。三島院長は危機感を募らせる。

 「医師が増えないと、どうにもならない」


 ご意見、ご感想をお寄せください。〒700―8534、山陽新聞「安心のゆくえ」取材班。ファクス086―803―8011、メールanshin@sanyo.oni.co.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年05月04日 更新)

タグ: 医療・話題

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ