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破裂脳動脈瘤 岡山旭東病院

顕微鏡下で行われる脳動脈瘤の開頭クリッピング術=岡山旭東病院提供

【写真左上から】吉岡純二診療部長、中嶋裕之脳神経外科主任医長、津野和幸脳神経外科医長、溝渕雅之脳神経外科医長【同左下】佐藤元美脳神経外科医長

【写真上】脳のMRI画像。矢印が指す白い部分にくも膜下出血が見られる【同下】脳血管のMRA画像。矢印部分が前交通動脈瘤

患者到着から15分で診断
開頭クリッピング術が主体


 脳動脈瘤(りゅう)が破裂すると、くも膜下出血を引き起こす。脳卒中の中でも特に怖い。仮に手術などの治療ができた場合でも社会復帰できる人は約3分の1にとどまり、約3分の1が死亡、残りの人には障害が残る。急性期病院の岡山旭東病院(162床)は脳・神経・運動器疾患の治療に力を入れている。破裂脳動脈瘤への救急対応などを紹介する。

症  状

 今まで経験したことのない、ハンマーで殴られたような激しい頭痛に急に見舞われる。嘔吐(おうと)しそうになる。引き続いて意識がなくなり、まひが起きることもある。このような症状が出れば脳動脈瘤が破裂、くも膜下出血の恐れがある。人とけんかをしたときなど急な血圧上昇が破裂の引き金になる。

 「1番の留意点は激しく急な頭痛。それを経験したときはすぐに救急車を」と吉岡純二診療部長(脳神経外科)は言う。初回破裂で約10%の人がそのまま死亡する。破裂後、頭蓋(ずがい)内圧と血圧が同じになれば、脳動脈に穴が開いていても出血はいったん止まった状態になる。しかし再発作が起きて2回目の破裂では脳へのダメージがより強くなり、約50%の人が死に至る。救急車で搬送中に再破裂することもある。

 「脳動脈瘤が再破裂すれば死亡率は高くなる。早く病院に来て早く処置した方が予後(医学的な見通し)は良い」(吉岡診療部長)

診  断

 救急車で搬送された患者のほとんどは診断がついていない。呼吸管理や血圧のコントロールを行う一方、MRI(磁気共鳴装置)画像とMRA(MRIを使った血管画像)で診断する。同病院は2007年4月、従来の2台(1・5テスラ)に加え、2倍の磁力(3テスラ)を持つ最新式のMRI1台を導入した。これによって大きさ1ミリ、2ミリレベルの脳動脈瘤まで描出できる。患者到着から約15分で診断がつく。手術適応なら、その時点で手術を計画する。

 患者の意識障害が非常に強い昏睡(こんすい)状態(刺激しても覚醒(かくせい)しない)では手術適応は難しくなる。

 同病院は常勤医師31人のうち脳神経外科専門医が9人。医師の当直は外来、ICU(集中治療室、8床)各1人の2人体制をとる。脳神経外科専門医が当直していないときはオンコール制で呼び出す。MRI、MRA撮影が終わるまでには病院に着く。

手  術

 再破裂予防が手術の目的。開頭クリッピング術を行うのは脳神経外科の吉岡診療部長、中嶋裕之主任医長、津野和幸医長、溝渕雅之医長、佐藤元美医長の5人。血管内手術(コイリング)は神経内科の河田幸波医長が岡山大学病院脳神経外科のチームと協力して行っている。

 開頭クリッピング術は全身麻酔をかけて頭を開く。顕微鏡で直接観察しながら脳動脈瘤を露出させ、瘤の首根っこ部分にチタン製クリップをかけ、瘤内に血流が入らないようにする。手術時間は2時間半から4時間前後。

 血管内手術は全身麻酔をかけ、レントゲン透視下で脚の付け根からカテーテル(細い管)を入れ脳動脈瘤まで届かせ、カテーテルの中から送り込んだプラチナ製コイルを詰める。手術時間は3時間から5時間。

 症例数は開頭クリッピング術が2007年22例、08年11例、09年16例、10年7月末現在16例。血管内手術は、08年3例、09年2例、10年6月末現在1例。「日本では開頭クリッピング術が主流で、当院でも手術の主体。クリップをかけにくい脳底動脈先端部に瘤がある場合などはコイリングの選択もある」と中嶋主任医長。

 術後はICUで管理し、症状が軽ければ3週間以内に退院。重症の場合は術後1カ月をめどに回復期リハビリテーション病院へ転院となる。

脳血管攣縮

 くも膜下出血によって起こる合併症の一つに脳血管攣縮(れんしゅく)があり、出血から数日して始まる。血管が細くなるため、血流が低下する。血腫から、血管を収縮させる物質が出ることなどの影響と考えられている。

 症状は収縮した場所によって違い、手足まひ、失語症、意識障害などがある。患者の20〜30%以上に症状が出て、中には死亡する場合もある。確実な治療法はない。血管が狭くなっている所をバルーン(風船)で膨らませたり、血管の収縮を抑える薬を入れるなどして対処する。

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 くも膜下出血 脳の表面を覆う、くも膜の下への出血。まれに外傷性のくも膜下出血もあるが、これは脳動脈瘤の破裂とは異なる。起きやすい年齢は40歳代から70歳代。男性より女性の方が多い。厚生労働省調査によると、全国の患者数は2005年で推計4万5千人。くも膜下出血が原因で09年、全国で1万3911人が死亡した。死亡総数に占める比率は1・2%。

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薬袋 エリル
血管の収縮を抑制


 日本で開発された塩酸ファスジル注射液。くも膜下出血後に使用する。Rhoキナーゼという酵素の阻害作用によって血管の収縮を抑制する作用等がある。それにより、くも膜下出血後の脳血管攣縮やそれに伴う脳虚血症状を予防・改善させる効果がある。

 通常、成人には30ミリグラムを50〜100ミリリットルの電解質液等で希釈し、1日2〜3回、約30分間かけて点滴静脈注射する。くも膜下出血の術後早期に開始し、2週間の投与が推奨される。

 しかし、その薬理効果により頭蓋内出血をきたす危険性があり、破裂した脳動脈瘤の止血処置が不十分である場合は投与できない。

 (佐藤元美・脳神経外科医長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年09月20日 更新)

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