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川崎医科大学高齢者医療センター 柏原直樹病院長に聞く 複数疾患に総合診療展開

岡山市の中心部、旧川崎病院跡地に開院した川崎医科大学高齢者医療センター。年をとっても誰もが平穏に地域で住み続けられるよう、治し支える医療を展開する

明るくモダンなデザインの病室。壁はふすまに近い意匠にし、自宅のような環境を再現。ベッドの横には座り心地のよいベンチを配置した

ツツジやサルスベリ、キンモクセイ、ツバキなど季節の花が楽しめる屋上庭園。中心市街地にありながら心安まる緑豊かな環境を用意した。病院内と周辺には86種類約7300本が植えられている

柏原直樹病院長
―現在、国内の65歳以上の高齢者人口はおよそ3600万人、高齢化率は約29%です。今後、高齢者医療の重要性はさらに増すでしょう。高齢者医療センターが展開する総合診療とはどのような医療ですか。
人は加齢に伴って体力が落ち、意欲や認知機能が低下することも少なくありません。ふらつく、だるい、眠れないなどの症状も出現したり、さまざまな病気を合併したりして、生活の質が低下しがちです。高血圧症や糖尿病、心不全、サルコペニア(骨格筋量の低下)など複数の疾患を併せ持っている、というのがむしろ普通と言えるでしょう。
ただそうなると、循環器内科や消化器内科といった臓器別に高度専門化した、急性期疾患を中心にしている従来の診療では適切に対応できないのです。
―高齢患者は慢性疾患が多いことも特徴ですね。
もちろん治せる疾患、急性期疾患にはきっちりと対応しますが、治りきらない病気が大半なのが現実です。「体調は必ずしも万全ではないけれど、病気と折り合いを付けながら仕事をしたり家族と平穏に暮らしたい」。そう思っている患者さんとご家族の生活を医療面から支えるのが高齢者総合診療です。
患者さんごとに病状や身体機能・認知機能を的確に評価し、本人の希望や家庭状況も含めて医療、介護、福祉のさまざまな視点から多職種でディスカッションするなどチーム医療によって対応方針を決めます。
―高齢者医療を掲げた医療機関は多くありますが、大学の付属病院というのは大きな特徴です。
われわれが目指す高齢者医療は、いわば「もう一つの最先端医療」です。
最先端というと、皆さん再生医療や遺伝子治療などを想起しがちです。
日本は世界のトップを切って超高齢社会に突入しました。その状況は世界が注目しています。求められているのは従来の専門分化した医療ではなく全人的な総合医療であり、急性期のみならずその後の回復期や在宅医療も含めた長期的な視点です。
―これまで総合診療の重要性はいわれていましたが、思うような成果は上げられていないようです。
その原因として、実践的に学べる臨床教育の場がなかったことも一因です。そこで、総合診療に包括的に取り組む日本で初めての大学病院として、高齢者医療センターを開設しました。
ここを川崎学園が養成する医師、看護師、保健師、管理栄養士、理学療法士や作業療法士といった多職種の教育の場とし、その診療と研究の成果を世界に発信したいと思っています。
われわれが目指す高齢者医療に教科書はありません。われわれが長寿社会における医療の在り方を開拓していこうと思っています。その意味において最先端医療なのです。
―具体的な病院の機能はどのようなものですか。
高齢者総合診療科に「老年症候群外来」と「もの忘れ外来」を設けました。「フレイルセンター」では健康運動指導士らが体力維持・筋力増加のための運動プログラムを提供します。
全102床のうち51床を充てた地域包括ケア病棟では、転倒による骨折や手術、心不全や肺炎などの急性期治療を受けた後、症状が安定した患者さんを対象に、在宅復帰に向けたリハビリテーションや体力の回復、嚥下(えんげ)機能の回復などの支援に取り組みます。
在宅に移行すれば、地域のかかりつけ医の先生と連携しながら訪問看護や訪問介護、訪問リハビリを実施し、住み慣れた地域での生活を支えます。
また、介護者の負担を軽減するためにレスパイト入院(介護家族支援短期入院)の機会も提供します。
サービスを提供する「在宅療養支援センター」のスタッフは、病院でのカンファレンスにも参加します。入院時から患者さんに関わってもらい、スムーズな在宅療養への移行につなげたいと考えています。
かしはら・なおき 岡山大学医学部卒業。米国ノースウエスタン大学留学、岡山大学医学部講師、同助教授を経て1998年に川崎医科大学腎臓・高血圧内科学講座主任教授、2007年に英国オックスフォード大学ビジティングフェロー、09年に川崎医科大学副学長を併任。23年9月から現職。日本腎臓病協会理事長、日本腎臓学会前理事長、厚生労働省腎疾患対策検討会座長など。
(2023年09月04日 更新)