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がん治療の最前線 松岡良明賞受賞3氏が講演 川崎医大・山陽新聞社 メディカ健康講座

園尾博司名誉教授・川崎医大病院長

春間賢・消化管内科学教授

猶本良夫・総合外科学教授

 川崎医大(倉敷市松島)と山陽新聞社によるメディカ健康講座「がん治療の最前線」が3月23日、岡山県総合福祉会館(岡山市北区石関町)で開かれた。同大などを運営する学校法人川崎学園と山陽新聞社が教育や研究、地域活性化の推進を目指して昨年11月締結した包括的連携協定の一環。がん撲滅に功績のあった医師らを顕彰する山陽新聞社会事業団の松岡良明賞を受賞した同大の3氏が講演、市民ら約350人が聞き入った。
 
がん検診―乳がんを中心に 園尾博司名誉教授・川崎医大病院長

 女性で最も多いがんは乳がんだ。30〜64歳の死因ではトップ。ほかのがんが60、70代でかかるケースが目立つのに対し、乳がんは35歳から急増するため、若い人には非常に怖い病気といえる。

 岡山県では年間千人を超える女性が乳がんになり、200人近くが亡くなっている。乳がんは遺伝と女性ホルモンの影響が大きく、家族に乳がん患者がいると2倍くらいかかりやすい。子どもを産んでいないと1・5倍増。身長が高いなど成長が早いのも危険因子といわれる。女性ホルモンそのものはがんをつくらないが、がんの芽を育てる。女性ホルモンが長い期間作用すると危ないとされる。

 予防で大切なのは検診だ。腫瘍径(しこりの大きさ)が小さいほど治りやすく、2センチ以下は早期乳がんといって9割が治る。3センチ以下では、乳房を残すことができ、脇のリンパ節を全部取らなくて済む。3センチを境に運命が変わってしまう。

 だが現状をみると、がんの発見動機は、検診発見が4人に1人で、大半は自分で見つけている。また、毎月自己検診をしていた人は発見時のサイズが平均2・1センチだが、「ときどき」や「たまたま」という人は3・3センチまで大きくなっている。3・3センチではもはや乳房もリンパ節も残せない。定期的にチェックしなければ意味がない。

 検診は視触診だけでは不十分。視触診は千人に1人だが、マンモグラフィーは400人に1人の割合で乳がんが見つかる。岡山県はマンモグラフィー読影認定医と撮影認定技師が全国平均より多く、独自に勉強会を行うなど精度アップに努めており、全国的にも検診の質は高い。ぜひマンモグラフィーも受けてほしい。

 震災と同じように、乳がんは何の前触れもなく突然やってくる。われわれ医者は最善を尽くすが、あのとき検診を受けていれば、と悔やむこともしばしば。お母さんは家庭の光であり、早く亡くなってはいけない。検診を受けて元気でいてほしい。

胃・大腸がん―ここまできた診断と治療 春間賢・消化管内科学教授

 胃がん・大腸がんの現状、がんになりやすい人と予防方法、がんの診断法―の三つを重点に説明する。

 胃がんで亡くなる人は年間約4万9千人で、この30年間ほとんど変わらない。一方、大腸がんは約4万5千人だが、年々増えている。胃がんは男性の9人に1人、女性の18人に1人がかかり、大腸がんは男性の12人に1人、女性の15人に1人がかかる。食生活の欧米化が進み、人口当たりの大腸がんの罹患(りかん)率は近年、欧米より高くなってしまった。

 いずれも早期発見できれば内視鏡で治療できる。粘膜下層に液剤を注入し電流を流してがんを焼き切る方法で、体への負担が小さく術後の回復が早い。胃や大腸の機能も温存できる。

 胃がんの原因の95%はピロリ菌だ。血液検査でピロリ菌による胃の粘膜の炎症度を調べることができる。ピロリ菌は感染するので治療が必要。1週間、薬を飲めばほとんど除去できる。

 一方、大腸がんの原因はまだまだ分からないことが多い。ただ、飲酒する人、肥満の人、肉をよく食べる人はそうでない人に比べ、かかりやすい。大腸がんは昔の日本人にはなかったわけで、昔ながらの日本食で塩分を減らした食事が予防に良いだろう。アスピリンを飲むと、予防効果があることも分かっている。

 大腸がんの検査方法はいろいろ選択できる時代になった。

 CTコロノグラフィー検査は、内視鏡を使わずに体外から腸内を撮影し、3D画像や仮想内視鏡画像を得る方法。内臓脂肪なども測定できる。

 患者にカプセルを飲み込んでもらい、大腸の中を流れていく間に内側の粘膜を自動的に連続撮影するカプセル内視鏡検査も、川崎医大病院で3月から開始した。いずれも患者の心身の負担が従来の内視鏡検査よりも軽く済むのがメリットだ。

今、注目の食道がんについて 猶本良夫・総合外科学教授

 がんは遺伝子の異常が原因で起きる。それは遺伝するということではなく、生活習慣や加齢、環境などが積み重なって引き起こされる。

 食道がんは男性の54人に1人、女性の222人に1人が罹患する。食道はのどから胃の入り口まであり、その下部は心臓、大動脈、肺に囲まれ、がんが進行すれば他の重要な臓器に転移しやすい。

 予防のためには、まず禁煙、節酒をすること。

 喫煙者は非喫煙者に比べて罹患率が2・2倍に上昇すると言われている。他のがんも同様で、肺がんは4・4倍、ぼうこうがん、膵(すい)がん、肝がんは1・6倍、喉頭がんは32・5倍にもなると言われている。

 飲酒とも関係が深い。アルコールを飲むと顔や体が赤くなるにもかかわらず無理に飲もうとする人が、かかりやすい。これは、アルデヒドを分解する酵素の働きが弱いことが影響している。逆に顔や体が全く赤くならない人は、かかりにくい。

 治療技術はどんどん進歩しており、腹も胸も開けることなく、内視鏡で病巣を焼き切ることができる。初期なら入院が2、3日で済むこともある。内視鏡手術は傷が小さいのがメリット。手術の安全性も遜色ない。しかし、再発率が従来の外科手術と比べて差がないかどうかを実証するにはもう少し症例を重ねる必要がある。

 早期発見のためにはとにかく検査を受けること。臓器別では、食道や胃、大腸は内視鏡、肝臓や膵臓は超音波、肺はCT(コンピューター断層撮影)、前立腺はPSA(前立腺特異抗原)が有効。PET(陽電子放出断層撮影)は全体を網羅できるが、早期では発見できないこともある。

 早期で見つかれば多くの治療法があるが、進行すれば治療法が限られ、抗がん剤治療や抗がん剤に放射線治療を組み合わせる放射線化学療法を行ったりする。

こんなことが知りたい

 講演に続き、園尾名誉教授ら3氏は参加者から事前に寄せられていた質問に答えた。

 園尾名誉教授は、がんの特性を問われ「血管などに入り込んで全身にがんが広がると、薬でしか治療できなくなる」と、進行がん治療の難しさを説明。乳がんの乳房温存手術については「通常はがんが3センチ以下なら乳房を残すが、しこりの周りに広がりがあるようなら取るしかない」と話した。

 春間教授は、胃潰瘍の患者から胃がんとの関連性を尋ねられ、「胃潰瘍と胃がんは99%関係ないが、胃潰瘍に見える胃がんもあるため、胃カメラを飲んで細胞を調べる必要がある」と回答した。

 猶本教授は、最近増えている逆流性食道炎と食道がんの関係について「胃液が逆流すると食道の粘膜がただれるなどし、発がん性の要素は高くなる」と述べた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年04月21日 更新)

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