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神経痛治療に光明 伝達タンパク質発見 岡山大教授ら

森山芳則教授

 神経伝達物質のATP(アデノシン三リン酸)の分泌に不可欠なタンパク質を、岡山大大学院の森山芳則教授(生化学)らの研究グループが世界で初めて突き止め、有力科学誌・米科学アカデミー紀要電子版に二十五日発表した。高血圧や神経痛などATPの異常分泌が関与する幅広い病気の治療につながる研究として注目される。

 タンパク質はトランスポーターと呼ばれ、五種類ある神経伝達物質を神経細胞中のシナプス小胞に取り込んで放出、情報を伝える働きがある。神経伝達物質のうちATPだけはトランスポーターが特定されていなかった。

 神経伝達物質の一つ、グルタミン酸のトランスポーターを研究していた森山教授らは、その遺伝子配列から別の新しいタンパク質を発見。ATPが多く分泌される副腎髄質で多量に発現することに着目した。

 このタンパク質を人工的に作った小胞に組み込みATPを加えたところ、小胞内で百倍―千倍に濃縮された。一方でこのタンパク質の発現を抑えると、ATPが小胞内にたまらないことを確認した。

 森山教授は、小胞型ヌクレオチド・トランスポーター(VNUT)と命名。ATPの過度な分泌が血管を収縮させて血圧を上げたり、神経痛など激しい痛みをもたらすため、VNUTの働きを抑えられれば症状をコントロールできる、という。

 森山教授は「神経伝達の全体像が解明されるだろう。ATPがかかわっている可能性があるアルツハイマー病の治療などにもつながるのでは」と話している。


薬品開発に選択肢

 井上和秀九州大大学院教授(神経薬理学)の話 ATPのトランスポーターは長い間誰も発見できなかっただけに画期的。これまで薬の開発は、情報を受け取る側の神経細胞の受容体への刺激を中心に進めていた。選択肢が広がり、有効な治療法がなかった患者には朗報となるだろう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年03月26日 更新)

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