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老年症候群 チーム医療で全人的対応 高齢者総合診療科 杉本研教授(副院長)

杉本研教授

 高齢者人口が増える中、川崎医科大学高齢者医療センター(岡山市北区中山下)は、心身のさまざまな不調を訴える高齢者の悩みに応え、地域での平穏な生活を支えることを診療の大きな柱としている。老年症候群や認知症、心身の機能が低下するフレイルなどに対応し、要介護や寝たきりになるのを防ぎ、在宅療養にも力を注ぐ。副院長で、高齢者総合診療科の杉本研教授(総合老年医学)に話を聞いた。

 ―高齢者人口の増加により、老年症候群への対応が医療機関にとって課題となっています。

 老年症候群は加齢に伴い、病気や、心と体の問題が複雑に関連し合って生じる症状のことです。めまいやふらつき、だるい、眠れない、痩せる―などの症状がいくつも現れます。

 初めはたいしたことはないのですが、放っておくと、起き上がってトイレに行ったり、食事や入浴をしたりといった日常生活の活動性(ADL)や生活の質(QOL)が徐々に低下します。最悪の場合、寝たきりになってしまいます。

 問題なのは、「この臓器のこういった病気のため、この症状が出ています」とは言いづらいことです。病気と症状が一対一の関係ではなく、従来の臓器別の診療科では対応が難しい場合が少なくないのです。

 ―そういった高齢者の問題に対応する総合診療とはどういうものなのか、具体的に教えてください。

 例えば、頭がぼんやりして体がだるく、少し物忘れもあって、夜間に何度かおしっこに行くし、気分も落ち込みがち―といった患者さんがいました。どれも高齢になればありがちな訴えではあります。

 時間をかけ、いろいろと話を聞いていると、結局、悩み事があって眠れない、というのが問題の根本にあることが分かりました。そこで、睡眠薬を調整して十分な睡眠がとれるようにすると、夜間におしっこに行かなくなり、頭と体がしっかり休め、ちゃんと考えられるようになり、気分が上向いて悩みも薄れ、問題は解消に向かいました。

 高齢者はいくつかの条件が重なって悪循環に陥りやすい面があります。このケースも放っておくと、だんだん衰弱して要介護となっていたかもしれません。問題は複雑に絡み合っていますので、それを解きほぐし、負のサイクルをストップさせる糸口を見つけ、適切に対処することがとても大事になるのです。

 ―診療で大切にしていることは何でしょうか。

 診察室で、患者さんが自分のことをしっかり話してくれるかどうかが肝心です。医師が聞きたいことだけを聞いて診察を終えるのでは、患者さんは言いたいことも言えず、本当のところは分かりません。だから問診などにはなるべく時間をかけます。症状や服用している薬、日頃の生活ぶり、介護の状況や家族関係もお聞きします。一見、関係ないと思えるような情報が問題解決の糸口になることもあるからです。

 問題点の特定に役立つのが高齢者総合機能評価です。ADLや認知機能、心理状態などをさまざまなツールを用いて評価します。

 ―入院治療についてはどのような方針で臨みますか。

 当院で受け入れるべき対象としては、老年症候群や、二つ以上の慢性疾患が併存している多疾患併存状態の患者さん、急性期治療を終えた回復期の患者さんなどが挙げられます。

 多疾患併存状態の患者さんの場合、複数の診療科にかかっていますが、一つの病気の治療が他の病気の回復を妨げるようなことが起き得ます。そうしたときには老年医学的な見地から、患者さんにとって一番良い治療法や治療の手順を各専門科の先生方に提案していきます。

 いくつもの疾患を抱えた患者さんで問題となるポリファーマシー(多剤服用による副作用)にも積極的に介入していくつもりです。要介護になる前段階であるフレイルの予防にも取り組みます。

 全人的な視点が求められる高齢者医療にチーム医療は欠かせません。カンファレンスには看護師や薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、訪問看護や介護など関係する全スタッフが治療の開始当初から参加し、入院治療だけでなく退院後を見据えた生活の視点も交えて検討します。

 ―すぐ隣の川崎医科大学総合医療センターなどとの連携で相乗効果が見込めそうです。

 当院は総合医療センター、在宅療養支援センター、医療短期大学が同じエリアにあるという利点があります。急性期から慢性期までのシームレスな高齢者医療が可能ですし、老年医学に関して医師や看護師、コメディカルに対する教育や、他診療科との共同研究、臨床研究に取り組む上でもメリットがあります。

 岡山市の中心部にあるという地の利も生かし、周辺の医療施設やかかりつけ医の先生方との連携も深め、岡山県のみならず日本の高齢者医療のモデルケースとなれるよう努力したいと思います。

 すぎもと・けん 大阪大学医学部卒業。同大学医学系研究科加齢医学大学院、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校医療センター、大阪大学医学部老年・総合内科学講師などを経て2020年10月、川崎医科大学総合老年医学教授、23年9月から現職。日本内科学会認定医・総合内科専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医、日本老年医学会専門医・指導医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本サルコペニア・フレイル学会理事など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年09月19日 更新)

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