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認知症 スケール使い進行度評価 高齢者総合診療科 和田健二教授

和田健二教授

画像診断を基に認知症の状態を説明する和田教授(川崎学園提供)

 認知症は年を取ると誰もがなり得る身近な病気だ。無症状のころから長い年月をかけて病気が進行することも分かってきた。どうやって治療をするのか、早期に病気を発見したり、進行を食い止める方法はないのか。川崎医科大学高齢者医療センター高齢者総合診療科でもの忘れ外来を担当する和田健二教授(認知症学)に聞いた。

 ―一口に認知症といってもいくつかの種類がありますね。

 認知症とは認知機能の低下とともに、日常生活に支障を来した状態をいいます。最も患者が多いのがアルツハイマー病、次に多いのが血管性認知症、さらに65歳以上ならレビー小体型認知症、それより若ければ前頭側頭型認知症があります。

 ―アルツハイマー型認知症はゆっくり進行するそうですね。

 かつてはアルツハイマー病といえば既に認知症の状態になった状態を指しましたが、研究が進み、脳の中にアミロイドベータやタウタンパクといった異常タンパク質が蓄積し、神経細胞が破壊され始める時期と発症する時期にはかなりのタイムラグがあることが分かりました。認知症を発症する前には軽度認知障害の時期があり、さらにその前段にはプレクリニカル期という無症状の状態があるのです。近年は、認知症の前段階から治療を始めることが考えられています。

 ―治療薬について教えてください。

 脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンを増やす3種類のコリンエステラーゼ阻害薬と、NMDA受容体の作用を調整する受容体拮抗(きっこう)薬・メマンチンがあります。そして今年、厚生労働省の専門部会は新しい治療薬・レカネマブの承認を了承しました。アミロイドベータを制御すると認知症をコントロールできることが証明されたという意味で、レカネマブの承認の意味は大きいのです。

 レカネマブ投与によって病気の進行を30%程度遅らせることができます。3年間治療をすれば1年間進行を遅らせることができるのです。いろんな意見はありますが、現時点では画期的な新薬だと思います。

 これまでの治療薬はアルツハイマー型認知症に限られていましたが、レビー小体型認知症に対してはコリンエステラーゼ阻害薬の一つであるドネペジルが効果があります。血管性認知症と前頭側頭型認知症は科学的に有効性が証明された薬はありませんが、このうち血管性認知症ではアルツハイマー型と同様の治療をすると良い効果が出る可能性があると考えられています。

 ―治る認知症があるそうですね。

 硬膜と脳との隙間に血がたまる慢性硬膜下血腫、頭蓋骨の内側に脳脊髄液がたまる正常圧水頭症、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症などは、早い段階から治療介入すると認知機能の低下を抑えられる可能性があります。これらをアルツハイマー型認知症と間違えてはならず、MRIや血液検査などによる正確な診断が重要になります。

 ―認知症になっても症状を改善できることがありますか。

 認知機能の低下は避けられませんが、そこから派生するBPSD(行動・心理症状)は良くすることができます。BPSDは興奮や攻撃性が出たり、欲求のままに行動したりしますが、家族や医療・介護の専門家が適切に支援できれば症状は改善できますし、家族の介護負担も軽減できます。

 BPSDは、当事者の満たされていない欲求の表れなのです。衰えた能力を認めたくはないという繊細な思いに寄り添い、少しでも欲求を満たしてあげることで症状は緩和します。

 ―多様な認知症の症状を正確に評価できる検査方法を開発しました。

 日常生活の様子、BPSD、認知機能を一度に評価できる認知症スケールを臨床に活用しています。認知症の日常生活に関する13項目の質問を家族に行い、点数化するのです。認知症の進行度を10分ほどで評価でき、どんな機能が衰えているのか、どんなBPSDが出ているのかといったことが分かります。「ABC認知症スケール」と名付けました。2018年ごろに東京大、香川大との共同研究で開発し、全国的に導入する医療機関が増えています。

 臨床から得られたデータを分析し、どういう機能の衰えた人にはどういう症状が現れるのかといったことを調べていく方針です。

 ―認知症の人と共生できる社会にしたいものです。

 認知症になっても朗らかに生きている人々が大勢いることに気付いてほしいです。啓発やメッセージ発信に全力を注いでいる若年性認知症の方もいます。根底に差別意識のある人は、仮に認知症になった場合に対応が後手を踏みがちです。一方、ポジティブに考える人は医療も介護も介入しやすく、症状改善につなげることができます。私たちは誰でも、できることとできないことがあります。できないことを互いに助け合う社会を築きましょう。

 わだ・けんじ 鳥取大学医学部卒業。同大大学院医学系研究科生理系専攻博士課程修了。同大付属病院講師などを経て、2019年から川崎医科大学認知症学教授。日本認知症学会理事、日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン作成委員会委員長などを務める。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年10月16日 更新)

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