文字 

HPVワクチン問題の行方 ウィメンズクリニック・かみむら院長 上村茂仁

 かみむら・しげひと 土佐高、川崎医大卒、岡山大大学院修了。産婦人科医。2004年、女性総合診療所「ウィメンズクリニック・かみむら」(岡山市北区本町)を開設。全国の小中高校で性教育講演を年間約80回行っているほか、若者から1日平均約100通の相談メールを受ける。日本思春期学会評議員。高知市出身。

 子宮頸(けい)がん予防で接種するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについて、厚生労働省が積極的に勧奨しないようにという勧告を全国の自治体に6月14日付で出しました。これは厚労省の専門部会が、ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な痛みが接種後に特異的に見られたため、発生頻度などがより明らかになり適切な情報提供ができるまでは積極的に勧めるべきではないとしたからです。

 ただし、中止ではなく、きちんと広報できるまで少し待ってくれという事です。今まで同様、希望者は接種は可能で、対象年齢者には国や地方自治体の補助が受けられる事も変わりはありません。

 子宮頸がんはHPVに起因し、現在15種類ほどの発がん性HPVが分かっています。その中で16型と18型のHPVを予防するのがこのワクチンです。現在2種類のワクチンが認可されていますが、子宮頸がんに対しての効果はどちらも同じです。性行為経験前の女性に接種した場合60%以上、性行為経験のある女性に接種しても約50%の予防効果はあるといわれています。

 そして、この発がん性HPVは性交経験者の80%が一生に1回は感染するといわれています。HPVは、手などの皮膚を介して最終的にはセックスで子宮頸部に感染します。その防ぎようのないHPV感染を唯一、予防してくれるのがワクチンなのです。

 一方、副反応の報告は50%以上に注射部の痛みや腫れが起きるなど、表1の通りです。ただこれらの症状はB型肝炎ワクチンなどでも同等にあり、HPVワクチンに特徴的なものではありません。

 また、表2のようにアナフィラキシーが接種96万回に1回、ギラン・バレー症候群、急性散在性脳脊髄炎が430万回に1回、持続的な痛みを訴える重篤な副反応も報告されています。しかし、これらの症状とHPVワクチンとの因果関係ははっきりしていません。

 現在、日本では10万人に3人の割合で子宮頸がんの死亡が確認されています。この副反応とワクチンの有効性を考えて注射を打つ、打たないを決めなければいけません。

 もちろん、子宮頸がんはワクチンだけでは予防できません。毎年の子宮がん検診が行われて初めて予防ができます。ところが、残念なことに日本の検診率は約20%で、ドイツの80%と比べてとても低い。ドイツだけでなく先進国は非常に高い検診率なのに、なぜ日本は低いのでしょう。

 婦人科に行きにくい、若者が受診しやすい環境にない、なども大きな原因と思いますが、もっと大きな原因は子どもの時から、大人になれば毎年子宮がん検診を受けないといけないという感覚を持っていないことだと思います。自分のお嬢さんに将来検診をきちんと受けてほしいのであれば、まず母親が毎年受ける姿を見せることではないでしょうか。

 ただ、毎年の検診だけでは予防しきれない子宮頸がんのタイプがあります。普通、子宮頸がんは扁平(へんぺい)上皮がんという組織が主体なのですが、中には腺がんという組織系が主体のものがあります。この腺がんは進行も早く、予後も不良です。しかし腺がんの原因の多くはHPV18型で、ワクチンで予防できます。

 婦人科医として私は、若いうちから子宮頸がんになって子宮を摘出し、子どもを産めなくなった患者さんや、生まれたばかりの子を残して逝った若い命を何例も見てきました。今、子宮頸がんは予防できるレベルにまで医学は進歩しています。各国の発症率と死亡率は表3の通りで、世界保健機関(WHO)はHPVワクチン接種を推奨しています。今後、厚生労働省がどのような判断を示すか、とても大切な局面を迎えています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年07月01日 更新)

タグ: がん医療・話題

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ