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旭川荘創立50周年記念公開講座 少子高齢化 福祉の未来は

福祉関係者、地域住民らが聞き入った公開講座の鼎談。会場から意見や質問も相次いだ

江草安彦理事長

 社会福祉法人旭川荘(岡山市祇園地先、江草安彦理事長)の創立五十周年記念公開講座「これからの人口問題と社会保障」(旭川荘主催、山陽新聞社共催)が五月二十九日、岡山市駅元町のママカリフォーラムで開かれた。戦後日本の社会福祉制度の変遷とともに歩んできた旭川荘が、少子高齢化、人口減少社会をにらんだ福祉課題を提起。鼎談(ていだん)では、栃本一三郎上智大大学院教授、増田雅暢内閣府参事官、渡辺俊介日本経済新聞社論説委員の三氏が、人口減少時代に見合った社会保障のあり方について活発に意見を交わした。福祉関係者、地域住民ら約四百二十人が詰め掛け、耳を傾けた。


鼎 談

上智大大学院教授    栃本 一三郎氏

内閣府参事官      増田  雅暢氏

日本経済新聞社論説委員 渡辺  俊介氏

(順不同)



国は早急に家族政策を 栃本氏

社会保険は改善が必要 増田氏

公への信頼 立て直しへ 渡辺氏



 渡辺氏 日本の少子化傾向は深刻な問題となっている。高齢者が増える中で年金、医療などの社会保障の負担はますます大きくなっていく。昨年の出生率は一・二九と過去最低となった。諸外国と比べて極めて低い出生率の原因を突き止めなければ、日本の少子化対策は実りがない。デンマークなど北欧の国が出生率を回復したのは優れた福祉政策があった。どんな国にするのかという目標がはっきりしている。日本にはそういう目標が欠けており、場当たり的な感じがする。

 一方で、日本の高齢者人口は今後、毎年六十万人ずつ増えていく。小泉内閣が進める構造改革は財政悪化を理由に社会保障費を減らす姿勢で、経済が伸びないと福祉予算も増やさないという。福祉は民間に任せるというが、公的負担をなくしたら民間が助かるかといえばそうではない。福祉大国といわれる国は公がやっている。日本は公に対する信頼が薄らいでおり、立て直しへ意識改革が必要となっている。

 栃本氏 社会福祉の形は資本主義の国でも多様なタイプがある。日本はドイツのように社会保障中心のタイプだったが、平等より格差を認める米国的な方向に切り替えていっている。今の日本の少子・高齢化の中では、家族内の男女平等や、子育てと就労が両立できる家族政策が必要と考える。ドイツは家族政策を「同権化政策」ととらえ、社会づくりを行っている。

 増田氏 少子化の原因については、離婚や晩婚の増加、女性の家事育児の負担増、男性の長時間労働など多様な要因が考えられ、原因究明はかなりされていると思う。ただ、少子化対策は高齢者対策と比べ、個人個人にとって危機感が具体的に見えない。じわじわと問題化するために、対策は想像力が問われる。家族政策は、面白い取り組みと思う。

 栃本氏 家族政策といっても、従来の伝統的家族を肯定しているわけでも、単なる人口対策のためでもない。日本はフランスや米国に比べ、「望まない出産」が多いというアンケート結果も、目に見えない少子化原因の一つではないか。女性にとって出産のタイミングや心構えは重要になる。国は識者を交え、あらゆる面から家族政策に早急に取り組むべきだ。

   ■   ■   ■

 増田氏 日本の社会保障は、社会全体が支えることでコストを安価に保つ効率的な仕組みだといえる。公か民かの議論は、サービスの供給自体としては民間のサービスにより機会が拡大し、雇用の確保にもつながっている。社会保障費は今後、全体として拡充が必要だが、今の制度は偏っており、高齢者対策から少子化対策に比重を置くべきだと思う。

 渡辺氏 もう一つは国と地方の問題がある。現在は財政主体が国となっている医療を、格差のみられる地方へという風向きになっている。福祉の実施主体は市町村だが、実際は国がやっているというように、社会保障の「国から地方へ」の流れはより複雑になっている。これからの国、地方の役割はどうあるべきか。

 増田氏 テーマごとに違うため一概に言えないが、保育サービスの提供は全国で統一するより、市町村できめ細かくやる方がよいが、介護保険はなるべく広域化するほうがいいと考える。医療も七十五歳以上を対象とした高齢者医療保険の考え方があるが、主体をどこにするのが望ましいのか議論が必要だ。個人的には都道府県単位では狭すぎ、首都圏などのようにブロック単位の広域運営がよいと思う。

 栃本氏 医療保険をブロック単位でというが、保険者自治は日本では難しいと思う。正直言って、自らの街のために福祉を重要施策として正面から取り組んでいる市町村の首長は少ないのではないかと心配している。豊かな社会を築くために今、投資をしておかないといけないのだが。

   ■   ■   ■

 渡辺氏 いずれにしても少子化、人口減少という流れの中、国民の負担は増やさなければならないという話になる。それが保険料か税金かという問題提起もあったが、今の日本は保険料と税金の負担の仕方が相当いいかげん。増税できないから社会保険などの保険料をという具合になる。だが、私たちが払っている国税は約四十三兆円、それに対し保険料は何と六十兆円近く払っている。今後、社会保障費の増加は避けられないが、その財源の調達はどうすべきか。

 増田氏 財源は重要な課題だ。現在、日本のサラリーマンの保険料負担は年金、医療、介護を含め年収の25%。四割のドイツ、フランスは今が限界という。あくまで厚労省サイドから見ればだが、日本の社会保険費負担は重くない。社会保険は負担と給付がある。今は両者の関係や給付内容が結びついておらず、改善が必要だ。いずれは自分に戻ってくると分かれば、負担も国民合意が得られるのではないか。

 栃本氏 国の今の施策をみる限り、目先のことにとらわれすぎている。妙な形で社会保障の給付をカットするのではなく、国際的視点で見なければならない。労働意欲を損なわないような公平公正を実現することが必要で、他国の状況を見ながら給付費を議論すべきだ。二〇二五年には高齢化率が33%になるといわれる。その状況下でも成り立つシステムを今のうちにつくっていくことが欠かせない。


 とちもと・いさぶろう 厚生省社会福祉専門官として福祉8法の改正などに参画。社会保障研究所主任研究員、参議院厚生委員会調査室客員研究員など経て現職。政策大学院大、放送大客員教授。著書に「介護保険 福祉の市民化」など多数。上智大大学院博士後期課程修了。52歳。


 ますだ・まさのぶ 1981年、厚生省入省。岡山市民生部長(91~94年)後、介護保険制度の企画立案に参画。九州大助教授、国立保健医療科学院福祉サービス部長を経て、内閣府参事官少子化社会対策担当。著書に「介護保険見直しの争点」など。東京大卒。50歳。


 わたなべ・しゅんすけ 1970年に日本経済新聞社入社。政治部、経済部記者を経て88年から論説委員。著書に「介護保険の知識」「年金と社会保障の話」「あなたの年金」など。東京大卒。61歳。


江草安彦理事長あいさつ

役割 再認識する機会に


 旭川荘は二〇〇七年の創立五十周年を目前に控え、多様な行事を考えている。私たちの仕事の持つ意味や役割といったものをあらためて再認識する機会にしたいと考えている。

 わが国の少子・高齢化は切実な問題で、特に少子化は一・二九という史上最低の出生率を記録した。高齢化の問題も大切だ。かつてわれわれは豊かな長寿社会を目指してきたが、いまや社会は少子・高齢化が顕著になってきた。この深刻な問題を、どうすればよりよい方向に変えられるかが重要になっている。

 旭川荘が誕生した一九五七年当時は、目の前の障害のある皆さんのために施設を開いた。そして高齢化社会の到来ということになり、六五年ごろから高齢者のための事業も展開してきた。

 医療と福祉の統合、融合化が私たちの一貫した姿勢であり、これを再認識して進んでいくことが今日の使命でもある。少子・高齢、人口減少という悩ましい問題を出発点として、どうにかして明るい問題に変えられるように皆さんと一緒に考えていきたい。


■旭川荘の沿革■

1957年 社会福祉法人旭川荘創設。川〓施設でスタート。

  67年 重症心身障害児施設・旭川児童院を開設。

  68年 特別養護老人ホーム・旭川敬老園を開設。

  71年 旭川荘厚生専門学院を開設。

  73年 身体障害者療護施設・竜ノ口寮を開設。知的障害者更生施設・いづみ寮を開設。

  74年 知的障害児通園施設・みどり学園を開設。

  78年 知的障害者通所更生施設・わかば青年寮を開設。

  79年 旭川荘研修センター開設。

  80年 知的障害者更生施設・愛育寮を開設。重度身体障害者授産施設・吉備ワークホーム開設。

  85年 江草安彦第2代理事長が就任。

  87年 障害者雇用事業所・有限会社トモニー設立。

  88年 第1回津山国際交流車いす駅伝競走大会の受け入れ支援(現在まで16回)。

  90年 旭川児童院通園モデル事業開始。各地にグループホーム、生活ホームを展開。第1回福祉の翼訪中団上海市訪問(以後、毎年開催)。

  94年 デイサービスセンター敬老園開設。

  96年 アジア福祉文化研究センター開設。

  98年 川〓祐宣記念総合在宅支援センター開設。上海市に日中医療福祉研修センター開設。

2002年 岡山県の委託を受け、情緒障害児短期治療施設・県立津島児童学院の運営を開始。知的障害者通所更生施設・いんべ通園センターつばき開設。

  03年 岡山県の委託を受け、県立おかやま福祉の郷運営を開始。旭川荘厚生専門学院吉井川キャンパス開校。岡山市の委託を受け、旭川荘さくら児童クラブ運営開始。国の委譲を受け、旭川荘南愛媛病院・南愛媛療育センターの経営開始。

  04年 身体障害者生活ホームむくげ開設。岡山県川上町(現高梁市)の委託を受け川上診療所、老人保健施設・ひだまり苑の運営開始。同県備中町(同)の委託を受け、備中・平川診療所の運営開始。


 【概要】拠点数 岡山県内9、愛媛県1▽施設・事業数 120▽利用者数 約2200人▽職員数 約2000人▽ボランティア 約2万人(年間)

(注)〓は崎の旧字
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年06月14日 更新)

タグ: 福祉医療・話題

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