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医療制度改革 高原亮治上智大教授に聞く  高まる地方の役割 岡山県は分野定め集中を

高原亮治上智大教授

 二〇〇六年度の医療制度改革に向けた論議が本格化している。増え続ける国民医療費の抑制が最大の焦点で、厚生労働省の改革試案では地方の役割が高まる方向だ。元厚労省健康局長の高原亮治上智大社会福祉学科教授(58)=玉野市出身=に改革の行方と岡山県の目指すべき方向を聞いた。

 ―現在の改革論議をどうみているか。

 「日米年次改革要望や米国のシンクタンクから受けた提言の影響などもあり、官邸は当初、株式会社病院の拡大や混合診療の導入などの構造改革を重視していたようだ。しかし、今のところ構造的な問題より医療費抑制策が前面に出ている」

 ―試案では生活習慣病予防や高齢者医療制度の見直しなどが示された。

 「さまざまな政策が示されたが、限られた医療費をどう配分するかという視点も見逃せない。本来、高齢者福祉の領域であるべきものを社会的な要因から病院が抱えた歴史的経過もある。どこまで医療費でまかなうべきかの検討も必要だ」

 ―医療計画の見直し、医療費適正化計画の策定など試案では都道府県の役割が重くなる。

 「県民の健康は県民が守る時代が来るということだ。県民にふさわしい医療の質と量、医療費負担をどの程度にするかも県単位で決めることになる。今まで国が力を持ちすぎていた。そこに三位一体改革などで税源と権限の移譲が求められた。元気のいい知事が旗を振り、地域に合った政策を考えていくしかない」

 ―各都道府県の医療費や抑制目標の達成度と負担を連動させる仕組みが提案されている。

 「例えば一人あたりの老人医療費が高い北海道は最低の長野県の約一・五倍。北海道は冬場、多くの高齢者が入院する傾向がある。長野県は自分の健康は自分で守るという地域運動が盛んだ。全国一律で不公平感が生まれている面がある。岡山県は優れた医療福祉の伝統や愛育委員などの地域活動を生かしながら他県の優れた点を学び、医療福祉先進県の意味を問い直すべきだ」

 ―医療連携や医師の偏在解消もテーマだ。

 「最大の問題は医師の地域的偏在に加えて、外科、内科、産科、小児科などハードな診療科医が不足していることだ。年功序列中心の病院の給与体系を崩さなければ基幹的な診療科を維持することは難しい。しかし、科ごとに診療点数の差をつけるにしても合意を得るのは困難な作業だ」

 ―岡山県は豊かな医療資源を生かしているか。

 「潜在力は近畿、中京に匹敵しており、地域づくりの核にしていくべきだ。しかし、現状では焦点が定まっているとはいい難い。“この医療分野なら勝てる”という優位な部分に資金と人を集中し、世界に通用する分野をつくることだ。それには大学の枠を超えた連携が必要となるので、やはり県が汗をかく必要がある。薬、食品、健康増進の技術開発を大学や企業を超えて結びつけたり、研究サポートセンターを開設してもいいのではないか」


 たかはら・りょうじ 1947年玉野市生まれ。72年岡山大医学部卒。76年厚生省に入り、大臣官房政策課企画官、岡山県環境保健部長、厚生労働省健康局長などを務め2003年に退官。04年4月、日本医療機能評価機構副理事長。今年4月から上智大教授を兼務。


ズーム

 医療制度改革 年内に政府・与党案をまとめ、来年の通常国会で医療関連法改正と予算化を目指す。その柱となる厚生労働省試案が今月19日に発表された。2025年度の医療給付費を現行制度で推移した場合に比べて7兆円少ない49兆円に抑制する内容で、生活習慣病予防と長期入院の是正を打ち出している。具体的には、高齢者の患者負担の見直しや、療養病床の食費・居住費の引き上げ、都道府県ごとに「医療費適正化計画」を策定、75歳以上を対象にした医療制度の創設など医療保険体系の見直しなどが盛り込まれた。政府の経済財政諮問会議などには、さらに厳しい医療費抑制を求める声もあり、与党を巻き込んだ議論が活発化しそうだ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年10月28日 更新)

タグ: 健康福祉医療・話題

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