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高齢者の熱中症 予防策は 専門家がアドバイス

「軽運動の後には牛乳を飲むのがお薦め」と話す鈴木特任教授

「旬の野菜を食べるのは理にかなっている」と話す松本准教授

 長期予報ではこの夏も、西日本は暑くなりそう。毎年、気温の上昇とともに増えるのが熱中症。特に、体力が低下し、暑さへの耐性が落ちている高齢者は注意が必要だ。夏本番を前に、暮らしの中での予防策について専門家に聞いた。

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エアコンためらわず使用


岡山大教育推進機構 鈴木久雄特任教授

 「気温が高い日は、ためらいなくエアコンを使う。それが命を守ることにつながる」。運動生理学やスポーツ医学が専門で、高齢者の健康にも詳しい岡山大教育推進機構の鈴木久雄特任教授はそう強調する。

 熱中症リスクにつながる、高齢者の身体的な特徴について、気温の変化やのどの渇きを感じにくい▽汗が出にくい▽若い世代に比べて血液、体液の量が少ない―などを挙げる。「発症場所は半数近くが自宅(屋内)。室温の上昇に気づかずに、無意識のうちに発症するようなケースも少なくない」と説明する。体の中の水分が少ないために、脱水症状が起きやすい。加えて今年は、さらなるリスクの要因を危惧する。

 一つは電気料金の高騰。もう一つは防犯意識の高まりだ。

 防犯意識を持つこと自体は良いのだが、日夜問わず窓を閉め切って過ごす時間が増えると、室温が上がりやすくなる。「本来なら、朝夕は窓を開けて風通し良く暮らすのが理想だが、昨今は治安上それが難しい。だからこそ、エアコンを使ってほしい」と鈴木さん。室内に温湿度計を設置して、30度超を目安に冷房を稼働させるのが望ましい。さまざまな物が値上がりする中で電気代は痛いが「健康や命には代えられない」と訴える。除湿の機能の活用や扇風機との併用で、効率的に冷やす方法もある。

 リスクの軽減には、毎日の軽い運動も有効という。「30分程度のウオーキングに、少し汗をかくような速歩を採り入れると、汗腺の働きが活発になり、熱を逃がしやすい体になる」。終わった後には水やスポーツドリンクよりも、コップ1、2杯の牛乳を飲むのがお薦めだ。タンパク質と水分の同時補給で体液量の増加につながり、熱中症への耐性がより強くなる。

 厚生労働省の調査では、2020年に熱中症で亡くなった人の8割以上が65歳以上の高齢者。鈴木さんは「重症化しやすいという自覚を持って体調を整え、無理をせず適切な室温管理で夏を過ごしてほしい」と呼びかけている。

夏野菜や果物で水分補給


川崎医療福祉大臨床栄養学科 松本義信准教授

 食生活を見直すことで、可能な予防もある。「大切なのは食事をしっかり取ることです」。そう話すのは川崎医療福祉大臨床栄養学科の松本義信准教授。管理栄養士の資格を持ち、食の観点から健康づくりを研究する。

 成人が1日に必要とする水分量は2~2・5リットル。松本さんによると、その約半分は食事を通して摂取しているという。「だからこそ、汗をかきやすい夏は、水分を多く含んだ食材を選んでほしい」

 例えば旬の夏野菜。キュウリやトマトは全体の9割以上が水分で、汗で失われがちなミネラル、ビタミン類も含み、体温を下げる効果も期待できる。ナスやピーマン、ゴーヤー、オクラなどもお薦めだ。「季節の食材を食べることは理にかなう。それによって健康を維持でき、夏バテ防止にもつながります」と松本さん。

 食欲が落ちた時にはそうめんなど喉ごしの良い麺類もいいが、野菜や卵など具だくさんにして、栄養のバランスを心がける。朝食やデザートには果物も水分が多いので摂っておきたい。

 喉が渇く前に水分補給を心がけることも重要だ。この場合は緑茶や紅茶、コーヒーなどカフェイン入りの飲料は、利尿作用があるので避け、麦茶や水がいい。温度は体温を下げるためにも5~15度がよい。「渇きに鈍感になっていることを自覚して、屋外などでの作業中は、できるだけまめに補給する。就寝中も水分は失われるので、寝る前と起床後に、それぞれコップ1杯の水を飲む」

 体内の水分が不足する脱水症状は、尿の色でも判断できる。水分が十分足りている時は透明に近いが、水分量が減ると、どんどん濃い色に変わるので、水分補給や医療機関受診の目安になる。「自分で体の状況をチェックしつつ、しっかり食べて、飲んで、暑い夏を乗り切りましょう」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年06月14日 更新)

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