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(1)認知症とは 倉敷平成病院認知症疾患医療センター長・神経内科部長 涌谷陽介

わくたに・ようすけ 鳥取県立米子東高、鳥取大医学部・大学院卒。鳥取大、松江赤十字病院などを経て2005年カナダ・トロント大神経変性疾患研究センター留学。12年倉敷平成病院神経内科部長、13年4月から認知症疾患医療センター長。医学博士。日本神経学会専門医・指導医。内科学会認定医。認知症学会専門医・指導医など。

 認知症の話題は、毎日のようにいろいろなメディアを通じて情報発信されているので、みなさんの耳目を集める機会も増えていると思います。例えば「認知症患者の爆発的増加」とか「徘徊(はいかい)・行方不明問題」、「介護負担問題」、「認知症は怖い」といったあまり良くないイメージが先行しているかもしれません。

 私の印象では、ほとんどの認知症の方は「認知症」という不自由さを抱えながらも、家庭や場合によっては介護施設で穏やかな日常生活を送っておられます。生活や心の上でのさざ波、小波、大波ありますが、それを乗り越えることもできます。そのためには、ケアマネジャーを中心とした介護専門職の方々のサポートや、医師などの医療者による的確な診断や治療・療養方針の提示・対応もとても大切です。商店なども含め、地域の中で認知症への理解が進めば、認知症の方とそのご家族がさらに安心して生活できる環境がかたちづくられます。

 認知症は、医学的には「認知機能障害により日常生活や社会生活に支障をきたした状態」と(堅苦しく)定義されており、決して一つの脳の病気を表す言葉ではありません。病の本態(病理)も衰える脳の部位も症状もその重さや組み合わせも人によりさまざまで、それらは置かれている環境や身体の状況からも大きな影響を受けます。

 そもそも「認知機能」という言葉でさえ聞きなれないですよね。でも、私たちは日々、自分自身に備わった「認知機能」をフル回転させてこの世界を生き抜いています。認知機能は、自分自身やとりまく環境(人・物・自然・時間・場所)に起こった変化(五感で感じ取れる情報や出来事)をきちんと感じ取って、次に自分がどう行動するのかを刻一刻と指し示す脳の機能です。細かく分けると、記憶力、注意力、言語機能、物事を順序立てて実行する機能、五感や環境の変化を基に状況を判断する機能―などが挙げられます。

 また、認知機能は、人や物、出来事などに対して抱く気持ちやそれに伴う身体の変化、例えば「ドキドキする」といったことですが、そういった感情・情動・気分や自律神経の働きと密接に関連しています。

 認知症の方をお互いに心地よくサポートするためにも、その方のどんな認知機能が衰えていて(病態と表現します)、具体的にどんな不自由さがあるのかを知ることは、一見難しく回り道のように見えますが、とても大切なことです。

 どんなタイプの認知症でも、一番衰えている機能は、その機能を維持するのに重要な領域の脳神経細胞自体の減少やネットワークの機能低下を反映します(例えばアルツハイマー型認知症では、出来事記憶をつかさどる海馬領域とそのネットワーク)。つまり、残念ながら文字どおり「なくなったもの」です。でも、なくなったものは脳の機能(認知機能)のほんの一部分です。認知症の診断自体は、なくなったもの(機能障害や脳の萎縮など)をいかに探し出すかにかかっています。しかし、生活の中では、なくなったものを無理に使おうとするよりも「あるもの・残ったもの」をしっかり使った方がうまくいくことがほとんどです。

 次回は、記憶障害を中心とした認知症の症状を解説します。



 倉敷平成病院((電)086―427―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月02日 更新)

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